安藤美姫さん禁煙大使就任記念<良いマルボロ悪いマルボロ>

大学で入ったサークルにカッコイイ先輩がいた。但し彼女持ち。その彼女も同じサークルの先輩で、サークルの中心的人物のひとりだったし何より素敵な方だったので即諦めた。そういうの嫌いなのだ。自分の気持ちはひたすら隠し通し、勿論なにも起こらずに終わった。

その先輩が吸っていたのがマルボロ。「あーーータバコ切れた。【私】買って来てくれない?」そう言われて近所のコンビニに走るのが嬉しかった。なんでもいいから役に立ちたくて。お金を預かる時も、タバコとお釣りを渡すときも、最新の注意を払って先輩の手には触れないようにしていた。それは私が勝手に決めたルール。だって先輩は先輩と付き合ってるんだから。

二年後、私は友達に連れられて同系統の他大学のサークルにも顔を出すようになっていた。そこで知り合ったのが【彼】。彼のタバコもマルボロ。少し苦い懐かしい薫り。そこでも私は自分の気持ちをひた隠しに隠した。和を乱すような気がして。そういうの嫌いなのだ。

ある時、何人かと約束していた映画の試写会のチケットが手に入ったので段取りをつけるために彼に電話した。それはもともと約束していた単なる連絡の電話なのだけれど、当然私にとってはそれ以上の意味があった。

一人暮らしとはいえ、あんまり遅い時間に電話するのは失礼だよな、と8時頃に電話をかけた。ご飯食べてなければいいな、お風呂入ってなければいいな、と何度かダイヤルする手を止めたうえでやっとかけた電話だった。でも彼はいない。結局電話がつながったのは10時すぎ。バイトで遅くなったそうだ。

…こんな遅い時間に電話をかけたら迷惑だよね、と残念に思いつつも要件だけで電話を切るつもりだった。ところが話し出したら何故か止まらず、そのまま朝まで話し続けていた。

話していたのはもう思い出せないような他愛のない話ばかり。途中でお互い何度かトイレに立った。立ったけど二人共電話を切ろうとはいいださなかった。電話の間中、彼はタバコを吸っていた。

受話器越しに聞こえる「カチッカチッ」という火を熾すライターの音。吸いながら火を付ける「スーッ」という微かな音。そして「フーーーッ」と細く長く煙を吐き出す音。受話器越しに耳元で感じるその音は彼そのもので、傍らに彼の気配を感じた私が電話を切ることなどできる筈もなかった。

強く当てすぎた受話器で耳全体がジンジンとした痛みを感じるようになった頃、話題は恋愛の話になった。お互いがお互いを探りあいながら長い時間をかけてその話題に辿り着いたのがわかって私はなんだか可笑しかった。そしてそのまま勢いで私は彼にこんなことを言った。

「今私が好きでいる人も、私のことを好きでいてくれてると思う。何故なら私は、私を好きになってくれる人、私を必要としてくれている人しか好きにならないから。」「だけど私は例えそうであってもその人と付き合いたくない。」「付き合ってしまったらいつか別れが来る。私はその人とは別れたくない。友人としてでいいから一生付き合っていたい。」

私が話す間彼は黙って聞いていた。黙って、タバコに火をつけていた。

この時の思いがあったから、私は最初のプレゼントにライターと灰皿を贈った。銀色の本体にラバーのつや消しの黒。手のひらにフィットするように独特の曲線の形状のライター。程なくして彼はそのライターをチェーン店の居酒屋で無くしてしまったのだけれど。

それから一年後、私は知り合いから【彼女】のことを警告された。実はその時点で既に私は彼女の存在を知っていた。彼から教えてもらったのだ。アプローチされたけど断った。君がいるからね、と。

彼女は彼に頼まれて、嬉しそうにコンビニにタバコを買いに行くのだという。そういう姿を何度もみたと。彼は今のところ彼女に対して特段の気持ちはないかもしれないけど、彼女は彼のこと大好きだよ。

それから数カ月後。彼の部屋にある、私が最初に送った銀と黒の灰皿に口紅のついたマルボロの吸い殻を見つけた時、私はもうダメだな、と思った。

わかっていたけれど私は終わりにすることはできなかった。状況はどんどん悪くなり、ぼろぼろになってしまったけれど私から終わりにすることなど到底できなかった。

彼のアパートに残してきた荷物を取りにいった時のこと。相変わらず灰皿には吸い殻が山盛りだった。習慣で吸い殻を捨てようとしたとき、その灰皿の側に懐かしいライターが無造作に置いてあることに気付いた。私は今何を話していてどういう状況なのかもすっかり忘れてしまい、場にそぐわない明るく弾んだ声で叫んだ。

「どうしたの?見つかったの?これ何処にあったの?!」

「彼女が忘れていったんだよ」

あれは当時某百貨店がプロデュースしていた若手デザイナーのシリーズで、一点ものではないにしろそんなに出回っているものでもなかった。私は彼が気に入ると思って彼に贈り、彼女は気に入って自分の為に買ったのだ。私はそれが彼女のもので同時に彼のものでもあると悟って薄く微笑った。

「吸い殻くらい捨てなよ。」聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でそういった私に「大事に使ってるんだよ。」と彼は訳の分からない言い訳をした。確かにシケモクも大事に吸ってたけどさ。

「この灰皿だけは彼女に使わせて欲しくなかったよ。」それを聞いて彼は少し怒ったような顔をした。

言い争いになった時、彼はいつも「彼女ひとりでこの部屋にいれたことはない。」「皆も一緒だった。彼女も仲間のひとりとしか見てない。」「大事な仲間を部屋に招き入れて何が悪い」と言っていた。つまらない勘ぐりや嫉妬はよせと言わんばかりに。またその言い争いが始まるのかと思って彼は不愉快な表情を見せたのだろう。

私は微笑みを浮かべたままこう言った。「だって、これは私が最初にあなたに贈ったものなんだよ。」最後の方は涙でほとんど声にならなかった。

あの時は幼すぎてわからなかったことが今はわかる。私はもっと物分かりが悪くてよかったのだ。嫌なことは嫌とはっきり彼にいえばよかったのだ。彼を理解したいと思いすぎて全てを受け入れてしまい自分を殺したのがダメだったのだ。奴隷とする恋愛なんて余程のマニアでもない限り嫌気がさしてもしょうがない。

ひとりでいることに違和感を感じて私は初めてタバコを吸った。
懐かしい薫りがしたけれど傍らに彼の気配はもうなかった。

 

 

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  1. 2017.04.03

    お礼とお詫び
  1. mk5go 2014.04.27 2:47am

    私の前のブログを読んだことが無い方は突然どうしちゃったの?!と思われるかもしれませんが、これずっと書いてるシリーズなんですよね。

    これからも突然ポエムると思いますんで興味ない方は読み飛ばしちゃってくださいw

  2. フィギュア好き 2014.04.28 8:37am

    相手を理解しようと自分を抑えすぎて伝わらないってこと、私にとっても「あるある」!
    切ないなー。

    • mk5go 2014.04.29 1:17am

      「あるある」!

      きっと多かれ少なかれみんな一度はありますよねー。

      確かに色々経験して前よりは上手く立ち回れるようになりましたが(多分)こういうキュンキュンなのはもう経験することがないのかも、と思うとそれはそれで残念ですw

      長男が切ない恋愛をしているようで羨ましい限り。はははーー

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